【イベントレポート】社長になる道は一つではない——ゼロイチ起業か、買収起業か
お知らせ
公開日:2026/06/30
更新日:2026/06/30
「起業したい」と考えたとき、多くの人が思い浮かべるのはゼロから事業を立ち上げるスタートアップではないでしょうか。あるいは、組織の中で経験を積み、将来的に経営者を目指す道もあります。では、そのどちらでもない「第三の選択肢」があるとしたら——。
2025年6月10日に開催されたオンラインセミナー「社長になる——買収起業か、ゼロイチ起業か」では、この問いを起点に、二つの異なるキャリアのあり方を掘り下げました。登壇したのは、ユニコーンファームCEOの田所雅之氏と、J-Search代表取締役の大槻昌彦。約2時間にわたる対話を通じて、「社長になる」という同じゴールに向かう、まったく異なるアプローチが浮き彫りになります。
ゼロイチ起業という「ルールのない戦い」
田所氏が語ったゼロイチ起業の姿は、一般的な華やかなイメージとは少し異なります。それは、いわば「ストリートファイト」。決められたルールや整備された環境があるわけではなく、市場そのものを見つけ、プロダクトを磨き、顧客を開拓する——すべてを自ら定義しながら戦う競技です。
特に印象的だったのは、「PMF(プロダクトマーケットフィット)」に対する説明でした。本当に求められているプロダクトとは、身近な人に評価されるものではなく、まったく関係のない第三者が価値を認め、自ら対価を支払うもの。その状態にたどり着くまでの試行錯誤こそが、起業の本質だという指摘です。
しかも、その到達点ですらゴールではありません。市場は常に変化し、今の正解はすぐに過去のものになります。ゼロイチ起業とは、不確実性を前提にしながら、仮説と検証をひたすら繰り返す営みであることが、改めて印象づけられました。
買収起業という「もう一つのスタートライン」
一方で紹介されたのが、「買収起業(サーチファンド)」という選択肢です。こちらはゼロイチとは対照的に、「アスリート」に近い競技といえます。すでにルールが存在し、一定の事業基盤や環境が整っている中で、そのパフォーマンスを最大化していく——そんな世界です。
既存企業をM&Aによって引き継ぎ、自らが経営者として事業を担うこのモデルは、ゼロから始めるのではなく、顧客や従業員、実績といった土台の上に立てる点が特徴です。
背景にあるのは、日本社会が抱える構造的な課題です。後継者不在のまま、黒字にもかかわらず廃業のリスクに直面する企業が数多く存在しています。そうした企業を引き継ぎ、次の成長を担う存在として、サーチファンドは注目を集めています。ここで求められるのは、単なる経営スキルだけではありません。企業や地域への理解、前経営者や従業員に対するリスペクトといった「人に向き合う力」が、成功の土台になることが強調されていました。
「まったく違う競技」であるということ
対談の中で繰り返し語られたのは、ゼロイチ起業と買収起業は「まったく違う競技」であるという点です。ゼロイチ起業は、ストリートファイトのように、前提そのものを疑いながら新しい市場やルールをつくる思考。一方の買収起業は、アスリートのように、既に存在するフィールドの中で、自らの力をどう発揮し、成果を最大化するかが問われます。
どちらが優れているかではなく、自分はどのフィールドでより力を発揮できるのかという適性の問題である——。この視点が、キャリア選択において重要であると語られました。
さらに、リスクのあり方も対照的です。ゼロイチ起業は立ち上げ時からタイミングや外部環境に大きく左右される一方、買収起業は既に成立している事業からスタートするため、不確実性の種類が異なります。それぞれの道には、それぞれの難しさと面白さがある。その違いを理解することが、キャリア選択の第一歩になるのかもしれません。
経営者は「何をするか」より「どう始めるか」
買収起業(サーチファンド)の文脈で大槻が強調したのは、経営における"順番"の話でした。新たに経営者として就任した際、すぐに改革を打ち出したくなるのは自然なことです。しかし、最初にすべきは分析でも施策でもなく、「信頼関係の構築」であると語られます。
現場の声を聞き、これまでの経営を理解し、その延長線上で未来を考える。このプロセスを経ることで、初めて変革が機能する——その視点は、どのような組織にも通じる示唆を含んでいます。
「第三の道」が示すこれからのキャリア
「社長を目指す」と言ったとき、どのような道筋を思い浮かべるでしょうか。ゼロから事業を立ち上げる起業か、あるいは組織の中で経験を積み、経営のポジションに到達するか。これまで、そのどちらかで語られることが多かったのではないでしょうか。
しかし今回の対談では、その二択には収まらないキャリアのあり方が提示されました。既存企業を引き継ぎ、成長させていく「買収起業」=サーチファンドの活用という選択です。
田所氏は、「今後5年〜10年で、サーチャーになりたいという人が増えてくるかもしれない」と語ります。日本のトップクラスの若手人材から「VCに投資してもらいたい」「スタートアップで起業したい」といった言葉が当たり前のように語られるようになったのと同様に、「サーチャーになりたい」という選択もまた、社会的に認知されていく可能性があるといいます。
大槻もこの見方に同意しながら、日本ならではのサーチファンドのあり方について言及しました。アメリカのように短期的な売却を前提とするモデルではなく、地域のステークホルダーとともに企業を引き継ぎ、その文化や思いを尊重しながら成長させていく——いわば「日本型サーチャー」という考え方です。単なる事業承継にとどまらず、「第二創業」として企業の新たな価値を生み出していく。その積み重ねこそが、結果として地域や産業の持続的な成長につながっていくのかもしれません。
おわりに(アーカイブ動画のご案内)
本セミナーでは、「ゼロイチ起業」と「買収起業」という二つのアプローチを通じて、「社長になる」というキャリアの多様な可能性を掘り下げました。当日の対談では、本稿では紹介しきれなかった具体的な事例や、より踏み込んだ議論も展開されています。登壇者それぞれの視点やリアルなやり取りを通じて、より立体的に理解いただける内容となっています。
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