事業承継ファンドとは?経営者を目指す人が知っておきたい仕組みや方法を解説

コラム

公開日:2026/05/28

更新日:2026/05/28

事業承継ファンドの提携やM&A成立を象徴する、スーツ姿の人物同士の握手のイメージ

後継者がいない会社はどうなるのか、またその会社を引き継いで経営者になることはできるのか、事業承継に関心を持ち始めると、こうした疑問が次々と浮かんでくるのではないでしょうか。日本では中小企業の後継者不足が深刻化しており、廃業を余儀なくされるケースが年々増えています。その解決策のひとつとして注目されているのが「事業承継ファンド」です。

事業承継ファンドは、後継者不在の企業に資金と経営支援を提供することで、事業の継続と成長を後押しする仕組みです。売り手である現経営者だけでなく、将来的に経営者を目指したいと考えている人にとっても、知っておく価値のある選択肢といえます。

この記事では、事業承継ファンドの基本的な仕組みやスキーム、メリット・デメリットをわかりやすく解説するとともに、サーチファンドという「新たな事業承継の仕組み」についてもご紹介します。事業承継や経営者へのキャリアチェンジに関心がある方は、ぜひ参考にしてください。

事業承継ファンドとは

事業承継や経営交代を連想させる、整理された経営者のオフィスのイメージ

事業承継ファンドは、後継者が見つからない企業の株式を取得し、経営の安定と事業の継続を支援することを目的としたファンドです。単に資金を提供するだけでなく、承継後の経営支援までをセットで行う点が大きな特徴といえます。まずは基本的な仕組みと、なぜいま注目されているのかを見ていきましょう。

事業承継ファンドの基本的な仕組み

事業承継ファンドは、PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)の一種です。PEファンドとは、未上場企業の株式を取得して企業価値を高め、最終的にイグジット(売却・上場)によって利益を得ることを目的とした投資ファンドを指します。事業承継ファンドはその中でも、後継者不在の企業の事業承継に特化したものとして位置づけられます。本稿では、事業承継を目的としたサーチファンドも事業承継ファンドに含めて説明いたします。

株式をM&Aで取得する手順自体は、他のM&Aと共通しています。ただし、一般的なM&Aが「買収それ自体」を目的とするのに対し、事業承継ファンドは「後継者不在企業の事業を継続させること」を目的としている点が異なります。さらに、株式取得後に経営支援を継続的に行う体制が組み込まれていることも、事業承継ファンドならではの特徴です。

事業承継ファンドが注目される背景

事業承継ファンドが注目される背景には、日本の中小企業が抱える深刻な後継者不足の問題があります。中小企業庁の調査によると、経営者の高齢化が進む一方で、後継者が決まっていない企業が多数存在しており、このまま廃業が続けば地域経済や雇用に大きな影響を与えると懸念されています。

後継者不在の企業が廃業を選んだ場合、黒字であっても会社としての資産・技術・雇用がすべて失われてしまいます。事業承継ファンドは、そうした企業の株式を取得して経営を引き継ぐことで、事業の継続や雇用の維持につなげることを目指す仕組みです。社会課題への対応策としての側面も持ちあわせているため、政府や金融機関からの支援も追い風となり、近年その活用が広がっています。

参考:中小企業庁『2025年版中小企業白書(事業承継)』

事業承継ファンドのスキーム

事業承継ファンドは、株式の取得から経営支援、そして最終的なイグジットまでを一連の流れとして設計しています。それぞれの段階で何が行われるのかを理解しておくと、ファンドを活用する際の判断がしやすくなります。

株式取得から経営支援までの流れ

事業承継ファンドによる一連の流れは、大きく以下の3段階で進みます。

  1. 対象企業の選定・交渉:ファンド(サーチファンドの場合は、後継者候補(サーチャー))は後継者不在の企業を対象に、財務状況や事業の将来性などを精査したうえで投資対象を選定します。条件が合意に至れば、次のステップへと進みます。
  2. 株式取得:M&Aによって株式を取得し、経営権を引き継ぎます。この段階で、現オーナー経営者は株式を譲渡することになるため、引退や事業からの退出が可能になります。
  3. 経営支援:ファンド(サーチファンドの場合はサーチャー)が経営に関与しながら企業価値の向上を目指します。経営人材の派遣や財務戦略の立案、業務改善など、企業の実情に応じたサポートが行われます。ファンドによって支援の内容や関与度は異なりますが、承継後も事業が安定して継続できるよう、一定期間にわたってサポートが続きます。サーチファンドの場合は、サーチャーが後継者として企業経営にコミットします。

企業価値向上後のイグジットと利益分配

ファンドには投資期間が設けられており、一定期間が経過するとイグジット(出口戦略)を迎えます。

イグジットの方法としては、主に以下の3つが挙げられます。

選択肢 概要 特徴
M&Aによる売却 ファンドが保有する株式を第三者に譲渡する イグジットの選択肢として最も一般的
IPO(株式上場) 株式を公開市場に上場させる 企業規模や成長性が求められる
MBO(マネジメント・バイアウト) 現在の経営者がファンドの保有株式を買い取る 経営陣が引き続き事業を継続できる

MBOが選択された場合、サーチファンドではサーチャーが経営者として事業を継続することも可能です。

イグジット時に得られた売却益は、ファンドへの出資者(LP)に分配されます。ファンドはこの利益分配を最終的な目標としているため、保有期間中は企業価値を高めることに注力します。売り手である元オーナーにとっては、株式譲渡によって対価を得られるだけでなく、ファンドによる経営支援を通じて事業が成長する可能性もある点はメリットのひとつといえるでしょう。

対象会社における事業承継ファンドのメリット・デメリット

事業承継ファンド活用におけるメリットとデメリットを比較するイメージ

事業承継ファンドの活用には、事業継続や経営支援といったメリットがある一方で、経営への影響や承継後の体制変化といった点も理解しておく必要があります。導入を検討する際は、メリットとデメリットの両面を踏まえて判断することが大切です。

メリット:後継者不在でも事業を存続できる

事業承継ファンドの大きなメリットのひとつは、後継者が見つからない状況でも事業を継続できる可能性がある点です。親族や社内に後継者候補がいない場合、廃業を選ばざるを得ないケースは少なくありません。

ファンドが株式を取得して経営を引き継ぐことで、会社として積み上げてきた技術・ノウハウ・雇用を守りながら、廃業とは異なる形での引退が実現します。

中でもサーチファンドを活用した事業承継では、後継者候補であるサーチャーがM&Aの過程でオーナーと対話を重ねながら承継を進めるため、「顔の見えるM&A」として相性や人柄を確認しながら後継者を見極められる点がオーナーにとっての大きな魅力といえます。

メリット:経営支援を受けられる

事業承継ファンドは、株式を取得するだけでなく、承継後の経営支援もセットで提供します。

財務戦略や人材育成、業務改善など、経営に関するさまざまなサポート(サーチファンドの場合はサーチャーによる経営)を受けられるため、ファンド側からの継続的なサポートを通じて経営の安定化を図りやすくなります。

メリット:企業価値の向上が期待できる

ファンドは投資期間中に企業価値を高めることを目指すため、経営改善や成長戦略の立案に積極的に関与します。財務体質の改善や新規事業の展開が進むケースもあり、会社の将来的な成長につながる可能性があります。

ただし、企業価値の向上はあくまでファンドと経営陣の取り組みによって左右されるものです。支援を受けることで改善の機会は広がりますが、成果が保証されるわけではない点は念頭に置いておく必要があります。

デメリット:ファンド側の意向が経営に影響する

事業承継ファンドが株式を取得すると、ファンドが主要株主となるため、経営上の重要な意思決定においてファンド側の意向が反映されます。

事業の方向性や投資判断、経営体制の変更など、これまでオーナーが自由に決めていた事柄についても株主との合意が必要になるため、ファンドとの関係性やガバナンスの在り方については、株式譲渡前の交渉段階でしっかり確認しておくことが重要です。サーチファンドの場合は、自身で見定めたサーチャーによる意思決定がなされるため、企業オーナーは事前にサーチャーへ自身の想いを伝えておくことが重要です。

デメリット:イグジットに伴い経営体制が再び変わる可能性がある

ファンドには投資期間があるため、一定期間が経過するとイグジットを迎えます。M&Aによる売却やIPOが選択された場合、株主が変わることで経営者や経営方針が再び変わる可能性があります。承継によって安定したと思っていた経営体制が、イグジットのタイミングで再び変化するという点は、あらかじめ想定しておく必要があります。

ただし、サーチファンドの場合はイグジットの選択肢としてMBOもあります。MBOが選択された場合はサーチャーを中心とした現在の経営陣が経営を継続できるため、体制の変化を抑えられる可能性があります。イグジット後の経営体制についても、ファンドとの協議の中で早めに方向性を確認しておくことが望ましいといえます。

デメリット:条件に合うファンドが見つからない場合がある

事業承継ファンドを活用したいと考えても、すべての企業がファンドの投資対象になるわけではありません。ファンドには投資基準があり、企業規模や業種、収益性などの条件を満たさない場合は、対象外となることもあります。

条件が合致するファンドが見つかったとしても、交渉や投資検討に時間がかかるケースがあります。後継者不在の状況が長期化している場合は、早めに専門家や仲介事業者に相談しながら選択肢を探ることが、スムーズな承継につながるでしょう。

事業承継を通じて経営者を目指す方法

事業承継によって経営者を目指す姿を表現した、ビジネスパーソンの後ろ姿のイメージ

ここからは、事業承継を通じて経営者になることを目指す方に向けた内容をご紹介します。事業承継は、現経営者にとっての「出口」であると同時に、経営者を目指す人にとっての「入口」にもなります。

後継者不在の企業を引き継ぐ主な方法として、以下の2つのアプローチがあります。

方法 概要 特徴
個人M&A 個人が自己資金や融資を活用して企業を買収する 自分の意思で承継先を選び、そのまま経営者として事業を引き継げる。多くの手続きを自力で進める必要がある
サーチファンド 投資家やファンド運営会社のサポートを受けながら承継先を探し、買収・経営を行う ファンド運営会社のネットワークを活用できるため、情報収集や交渉面でのサポートを得やすい

それぞれの詳細と特徴を確認していきましょう。

個人M&Aで後継者不在企業を買収する

個人M&Aとは、個人が自らの資金や金融機関からの融資を活用して、後継者不在の中小企業を買収する方法です。近年はM&Aマッチングプラットフォームの普及により、個人でも企業買収の機会にアクセスしやすくなっています。

個人M&Aの特徴は、自分の意思と資金で企業を買い取り、そのまま経営者として事業を引き継げる点にあります。一方で、買収先の選定、交渉、デュー・ディリジェンス(企業調査)、資金調達まで、多くの手続きを自力で進める必要があるため、ある程度の準備と専門知識が求められます。

サーチファンドを通じて経営者になる

サーチファンドとは、経営者を目指す個人(サーチャー)が投資家から資金提供を受けながら、承継先企業を探し、買収・経営を行う仕組みです。もともと米国で生まれたモデルですが、日本では「アクセラレータ型」と呼ばれる形態が主流となっており、個人が孤立せずにファンド運営会社や投資家のサポートを受けながら企業探索・買収・経営を進められる点が特徴です。

ファンド運営会社のネットワークを活用できるため、個人M&Aと比べて情報収集や交渉面でのサポートを得やすく、経営未経験であっても一歩を踏み出せる可能性があります。サーチファンドの仕組みや流れについては、別記事で詳しく紹介しています。

関連記事:サーチファンドとは?仕組みや従来のファンドとの違い・メリットを解説

サーチファンドで経営者を目指すなら日本サーチファンド(J-Search)

経営者になりたいと考えているものの、「どこから始めればいいかわからない」「一人では不安」という方にとって、サポート体制の整った環境を選ぶことは重要なポイントです。

株式会社日本サーチファンド(J-Search)は、サーチファンドの仕組みを用いて日本の、特に地方の事業承継問題を解決することを目的に誕生したアクセラレータ型サーチファンドです。経営者を志す方のサーチ活動から事業承継後の実務まで、一貫したサポートを提供しています。

経営者として成長できる支援体制

日本サーチファンドでは、サーチャー(経営者候補)一人ひとりに必要なノウハウを提供しながら、企業を引き継いで経営を成功に導く力を育てることを目指しています。経営者としての経験やスキルに不安を感じている方でも、段階的なサポートを受けながら成長できる環境が整っています。

サーチファンドにおける経営支援は、企業を買収して「終わり」ではありません。承継後も事業計画や100日プランの策定・実行支援を通じて、引き継いだ会社を安定させる初期フェーズを手厚くサポートします。日本サーチファンドはそうした一連の流れを重視した支援体制を持っている点が、大きな特徴のひとつといえます。

地域金融機関との連携によるサーチャーと企業のマッチング

日本サーチファンドは、全国各地の地域金融機関と連携しながら、サーチャーと承継先企業のマッチングをサポートしています。地域金融機関は地域の企業情報を豊富に持っており、その情報をもとにサーチャーと企業とのマッチングをサポートする体制となっています。また、資金調達の面でも地域金融機関がサーチャーを支援することで、サーチ活動を円滑に進めやすい仕組みが整っています。

自力で承継先を探そうとすると、情報収集の範囲や交渉力に限界が生じやすいものです。地域金融機関との連携を通じて、サーチャーはより多くの選択肢の中から自分に合った企業を探しやすくなるでしょう。

日本M&Aセンターグループのノウハウを活かした経営支援

日本サーチファンドは日本M&Aセンターグループの一員として、グループが持つリソースやノウハウを活用した経営支援を提供しています。投資実行までのデュー・ディリジェンスや契約書締結といった実務は日本サーチファンドが全面的にサポートし、投資提案や事業計画策定、100日プランの作成・実行については日本M&Aセンターグループの株式会社日本PMIコンサルティングが支援できる体制を整えています。

経営者になるうえで必要な知識やスキルは多岐にわたりますが、M&Aの知見や企業支援の実績を持つグループのサポートを活用することで、承継後の経営に取り組む際の心強い選択肢のひとつとなるでしょう。

事業承継ファンドに関するよくある質問

ここでは、事業承継ファンドやサーチファンドについてよくある質問と回答を紹介します。検討を始める前に気になる点を確認しておきましょう。

サーチファンドと事業承継ファンドの関係性とは?

事業承継ファンドは、後継者不在の企業を支援するという目的を持つファンドの総称として使われることがあります。サーチファンドも事業承継を目的としている点では共通していますが、誰が経営者になるかという点で異なります。

一般的な事業承継ファンドではファンド側が経営者を用意するケースが多いのに対し、サーチファンドは経営者を目指す個人(サーチャー)が自ら承継先を探して経営者になることを目指す仕組みです。オーナーにとっては、サーチファンドを通じて後継者候補と時間をかけて対話しながら承継を進められるという特徴もあります。

経営未経験でもサーチファンドで経営者になれるのか?

サーチファンドで活動している方の多くは、経営未経験からの挑戦です。アクセラレータ型サーチファンドでは、ファンド運営会社や投資家の伴走を受けながら企業探索・買収・経営を進める仕組みになっているため、実務面や意思決定についても相談できる環境が整っています。

ただし、経営者になるという責任の重さは変わりません。サポートを受けられる環境であっても、自ら学び、判断し、行動し続ける姿勢は不可欠です。経営未経験であることがハードルになるかどうかは、本人の意欲や学習姿勢、そして支援体制の充実度によって大きく変わります。

サーチファンドで経営者になるまでどれくらいの期間がかかるのか?

サーチファンドでは一般的に、承継先企業の探索から経営開始まで合計で1年〜2年程度を要するケースが多いとされています。具体的には、承継先企業を見つけるまでに半年〜1年程度、その後の交渉・投資判断に半年〜1年程度が目安となります。

ただし、期間はサーチャーの活動状況や対象企業の状況によって大きく異なるため、あくまで目安として捉えておくことが大切です。株式会社日本サーチファンド(J-Search)のようなアクセラレータ型サーチファンドでは、支援体制を活用することで承継までの流れをスムーズに進めやすくなります。

まとめ | 事業承継ファンドの仕組みを理解して自分に合った選択肢を見つけよう

事業承継ファンドは、後継者不在の企業の株式を取得し、経営支援を通じて事業の継続と企業価値の向上を目指すPEファンドの一種です。売り手にとっては廃業せずに事業を託せる手段となり、支援する側にとっては投資リターンと社会課題解決を両立できる仕組みでもあります。

経営者になることを目指す人にとっては、個人M&Aやサーチファンドという選択肢があります。中でもアクセラレータ型サーチファンドは、ファンド運営会社や投資家の伴走を受けながら、個人が孤立せずに承継先を探し、経営者として事業を引き継いでいける点が特徴です。経営未経験であっても挑戦しやすい環境が整っている場合もあるため、経営者へのキャリアチェンジを考えている方にとって、検討する価値のある選択肢のひとつといえます。

事業承継の形は一つではありません。自分の目標や状況に合った方法を見極めながら、経営者への道を考えてみてください。

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【免責事項】
本記事は、サーチファンドおよび事業承継に関する一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の投資、金融商品、M&A取引、事業活動等を推奨・保証するものではありません。記載されている内容は一般的な傾向・事例を紹介したものであり、成果や成功、資金調達の実現、事業承継の成立を約束するものではありません。

サーチファンドの活動および企業承継には、個人の経験、地域の事情、企業の状況、支援機関の体制などによって結果が大きく異なる場合があります。また、事業承継や投資にはリスクが伴い、必ずしも希望する案件が見つかるとは限りません。

本記事の情報は正確性・完全性を保証するものではなく、将来の結果を示唆・保証するものでもありません。具体的な検討や意思決定を行う際には、必ず専門家(金融機関、法律・税務・会計の専門家等)にご相談ください。